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原状回復ってどこまで必要?―その2―

1 標準契約書と原状回復ガイドライン

前回、賃貸住宅の退去時の原状回復、敷金返還をめぐるトラブルが増えているというお話をしました。主に、退去後の修理、クリーニング、リフォームなどの費用を、賃貸人と賃借人のいずれがどこまで負担するのか、その範囲と費用負担をめぐるトラブルです。

 

このような状況を受け、平成5年に旧建設省(現在の国土交通省)が「賃貸住宅標準契約書」を発表しました。これは、賃借人の居住の安定の確保と賃貸住宅の経営の安定を図る目的で、賃貸住宅の契約書のひな形として参考にされるようにと作成されたものです。そして、近時、国土交通省は、その改訂版を発表しています。

 

「賃貸住宅標準契約書」改訂版はこちら

 

また、国土交通省は、平成16年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)も発表し、近時再改訂されました。これは、過去の裁判例や取引の実務を踏まえ、原状回復の費用負担のあり方などについて、トラブルを未然防止の観点から、現時点において妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとしてまとめたものです。

 

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」再改訂版はこちら

 

2 ガイドラインの概要

建物の価値は、人が居住するか否かに関わらず、時間が経過すれば減少するものであり、契約によって定められた使用方法に従い、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、それが使用開始当時の状態よりも悪い状態であったとしても、賃借人としてはそのままの状態で賃貸人に引き渡せば十分であるというのが、原状回復に関する支配的な考え方であると前回ご紹介したところです。しかし、具体的にどのような場合に、どこまでの範囲が賃借人の負担となるのかは、そのような一般的で抽象的な基準を言われただけでは何も分かりません。

 

この「ガイドライン」は、上記の基準よりももう少し具体化した一般的な考え方を示すとともに、さらに、原状回復をめぐってよく問題となる「畳、フローリング、カーペット」「壁や天井のクロス」「ふすま、柱」「その他の設備」などの項目別に、どのような場合に賃借人が費用を負担する必要があるのかの基準を示してくれていますので、大変参考になります。

 

3 ガイドラインの例

ガイドラインの中身を若干紹介しますと、

・ 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡

(考え方)家具保有数が多いというわが国の実情に鑑みその設置は必然的なものであり、設置したことだけによるへこみ、跡は通常の使用による損耗ととらえるのが妥当と考えられる。

・ タバコのヤニ

(考え方)喫煙自体は用法違反、善管注意義務違反にあたらず、クリーニングで除去できる程度のヤニについては、通常の損耗の範囲内であると考えられる。

などといった考え方が示されています。読んで少し意外な印象を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

4 ガイドラインの位置づけ

このガイドラインは、国土交通省が発表しているものではありますが、法的拘束力はありません。裁判規範性がありませんので、トラブルが訴訟に発展した際に、裁判官がこのガイドラインに従って判断しなかったからといって、その判決が違法ということにはなりません。

 

個別具体的な事案において、原状回復費用の賃貸人と賃借人間の負担の問題は、契約の内容や、物件の状況等によって、あくまで個別に判断されることになります。が、このガイドラインは、個別具体的な事案における解決のために、賃貸人賃借人間の交渉や、裁判になったときの判断の指針として利用されることが期待されています。そして、実際にも、このガイドラインはトラブル解決の指針として参照され、影響力を持っていると言えます。

(中野星知)

 




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