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敷金って?

この4月に入学や就職、転勤で、マンションやアパートなどの部屋を借りて新生活を始めた方も多いのではないでしょうか。部屋を借りようと不動産仲介業のお店に行くとたくさん物件の情報を見せてもらえますが、「賃料」や「仲介手数料」のほかに「敷金〇か月分」「礼金〇か月分」などと書かれていますね。

 

1 敷金と礼金の違い

敷金は、不動産の賃貸借契約をする際に、借り手(賃借人といいます。)から貸し手(賃貸人といいます。)に支払うお金の一種です。礼金もこの点では同じですが、礼金は賃貸人が受け取りっぱなしで返却することが予定されていません。これに対し、敷金は後に賃貸人から賃借人に返却することが予定されているところが、礼金と異なります。

 

敷金は、賃貸借契約が終了した後、賃借人が退去して明け渡した時に、その時点までに賃料の滞納がある場合や、賃借人の使い方が良くなくて壊してしまいその修繕費がかかる場合など、賃借人が賃貸人にさらに一定のお金を支払う必要がある場合に、賃貸人が敷金からその金額分を差し引き計算し、その残額を賃借人に返還するという方法で清算されます。

 

2 敷金と保証金

敷金ではなく、「保証金〇か月分」とされていることもあります。しかし、多くの場合、この「保証金」も明渡時に未払賃料等が差し引かれて残額を返還すると賃貸借契約書に書かれていますので、その場合にはこの保証金とは敷金のことだと考えて差し支えないでしょう。

 

3 敷金が支払われる理由

賃貸人は不動産を貸す、賃借人はこれを借りて使いその対価(お礼)として賃貸人にお金を支払う、というのが不動産の賃貸借契約です。不動産を借りるその対価としてその賃料が賃貸人に、契約を仲介してもらったお礼として仲介手数料が仲介業者に、それぞれ支払われます。しかし、さらにこれに加えて、賃借人から賃貸人に敷金が支払われるのはなぜでしょうか。

 

端的に言えば、敷金は、賃料等の支払いの担保であり、賃貸人側にそのニーズがあるからです。

 

例えばマンションの一室が賃貸された場合をイメージしてください。契約が終了して賃借人が退去する際、その時点で家賃の滞納が1か月分あったとします。賃貸人としては、敷金2か月分を契約時に受け取っていたのだとすれば、滞納の1か月分の家賃を差し引いて、残り1か月分を敷金返還として賃借人に清算することで、賃貸人は、滞納家賃を確実に回収することができます。もし、賃借人の部屋の使い方が乱雑で部屋の備品が壊れていた場合、その修理に費用がかかるとしてその修理費用相当額を差し引いて清算すれば、修理費用も賃借人に支払ってもらったことと同じことになります。

 

また、家賃の滞納が長期にわたる場合、賃貸人としては賃借人に退去してもらって別の人にまた賃貸したいと考えるでしょうが、その賃借人が退去を拒む、あるいは退去できない場合(家賃を長期にわたって滞納する人は経済的に余裕が無く、引っ越したくてもすぐには引っ越すことができない場合が多い)、最終的には明渡訴訟をして判決をもらい、強制執行の手続きによることになりますが、それには相当な時間がかかります。その間も家賃の滞納が積み重なりますが、敷金をあらかじめ多めに受け取っておくことによって、仮にその敷金で滞納賃料の全部をまかなえないとしても、その分、損害が少なくて済みます。

 

4 敷金の定義

意外なことですが、民法には敷金契約に関する規定がありません。

 

先取特権に関する316条第1項に、「賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。」、賃貸借の更新に関する619条第2項に「従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。」と敷金という文言が出てくるのですが、肝心の敷金というものが何なのかが分かる規定は見当たりません。

 

もっとも、講学上、敷金は次のように説明されています。

 

敷金とは、

① 賃借人の賃料債務その他の債務を担保する目的で、

② 賃貸借契約が終了して目的物を返還したときに賃借人の賃貸人に対する未履行債務があればその額を差し引いた残額を返還するという約定の下、

③ 賃借人から賃貸人に交付される金銭

をいう。

 

したがって、このような性質を有しているものは、契約書にそのものズバリ「敷金」と書かれていても、「保証金」と書かれていても、あるいはそれ以外の名称がつけられていても、講学上の敷金にあたり、敷金契約の解釈論があてはまると考えられます。

 

5 敷金をめぐるトラブル

敷金は、不動産賃貸借契約が一般に多く行われる中で慣習的に成立したもので、その仕組み自体はとても合理性があるのですが、実際に賃借人が退去した際に具体的にいくらが返還されるべきなのか、契約書上退去時には一定額は返還しないとあらかじめ書かれている場合(敷引特約といいます)にその特約がどこまで有効なのか、などをめぐってトラブルが絶えません。

 

この敷金をめぐるトラブルについて、次回以降、少し触れてみたいと思います。

 

(中野星知)





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