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2020年12月アーカイブ

今回は、ファクタリングの種類などについて、少し掘り下げて説明をしたいと思います。

 

1 保証ファクタリングについて

前回の記事で、「ファクタリング」とは、一言でいうと、金融を得ることを主な目的として、債権を保有している者が、一定の割引料や手数料等を負担した上で、債権を売却して譲渡することを内容とする取引だ、と説明をしました。

 

しかし、金融取引とは呼べないものにも、「ファクタリング」と呼ばれているものは存在するようです。例えば、「保証ファクタリング」という類型があります。これは、取引先などが倒産する場合に備えて、あらかじめファクタリング業者に「保証料」を支払って、売掛金の支払いを保証してもらうというものです。売掛先が倒産しても、契約で定められた一定の範囲でファクタリング業者が代わりに払ってくれるので、債権回収上のリスクを軽減することができるというものです。金融というよりはリスクヘッジであり、保険の性質を持っていると言えそうです。

 

この「保証ファクタリング」は、この記事で述べようとしている「ファクタリング被害」が問題になるケースとは別物です。「ファクタリング被害」が問題になるのは、あくまで、債権売買型のファクタリングにおいてです。

 

2 二者間ファクタリングと三者間ファクタリング

債権売買型のファクタリングは、取引に登場するのが何社(何人)かによって、二者間ファクタリングと三者間ファクタリングに分類できます。

 

前回の記事の設例を使って説明しましょう。

【設例】

建設業を自営するAさんは、ある年の1月15日に、元請である建設会社B社からある工事を下請けとして受注し、請負代金1000万円のうち半分の500万円は契約時にすぐに払ってもらい、残りの500万円は工事が終わる予定である3月の末に払ってもらう契約をしました。しかし、Aさんは、今月は経費の支払がかさみ、1月末に入金される500万円だけでは従業員3人の給料が支払えません。そこで、B社に対する売掛債権500万円を、ファクタリング業者であるC社に買い取ってもらうことにしました。

 

(1)三者間ファクタリング

便宜上、三者間ファクタリングから説明します。なぜなら、三者間ファクタリングが、債権譲渡の本来の姿だからです。

 

Aさんは、B社に対する500万円の債権を、C社に代金460万円で買い取ってもらう。そうすることで、Aさんは、本来3月末まで待たなければ受け取れないものを、40万円ほど手取り金額が減るものの、すぐに現金で受け取ることができるというわけです。これが、ファクタリングでした。

 

しかし、本来は、AさんとC社が売買契約を締結するだけでなく、B社への手続きも必要です。C社は、Aさんから債権を買い取ったとして、3月末が到来したら、B社に500万円の請求をするでしょう。でも、B社からしたら、C社は知らない会社です。A社から請求されるなら分かりますが、突然C社から請求されても、本当に払っていいのか、払うべきなのかも分かりません。急に知らない会社の人が連絡してきて、「Aさんに払うお金を当社に払え」と言われても、信用していいか分かりませんから、とても払えませんよね。

 

B社は、このような場合、C社の請求を拒否していいことになっています。裏返して言えば、C社は、たとえAさんから債権を買い取ったのが神様の目から見たときの真実であっても、契約をして代金を払ったというだけでは、B社にそのことを主張することはできないのです。これを、C社は、B社に、債権譲渡を「対抗することができない」という言い方をします。逆に、C社がB社に対抗することができるための条件を「対抗要件」といい、その条件を満たしていることを「対抗要件を具備している」と表現します。

 

では、C社が、B社に、Aさんから買い取った債権500万円を支払えと請求できる(対抗要件を具備する)ためには、どのような条件が整うことが必要なのでしょうか。

 

それは、債権を譲り渡す側であるAさんが、債務者であるB社に、債権譲渡したことを通知するか、B社が債権譲渡を承認したことが必要です(民法467条第1項)。「C社に債権を売ったから、今後はC社に払ってね。」とAさんの口から聞かない限り、B社としては払えませんよね。また、B社が、債権譲渡のことを知っていて、自分から債権譲渡を承認したときは、Aさんから通知をしなくてもC社は払ってもらえることになっています。

 

要するに、Aさんは、C社との間でファクタリング契約、つまりB社に対する売掛債権の売買契約を締結することに加え、B社に対してこのことを通知し、又はB社の承諾を得るというのが本来の姿といえます。C社は、対抗要件を具備しているのですから、支払時期が来た段階で、B社に500万円を請求することができ、B社はこれに応じてC社に支払いをします。

 

三者間ファクタリングは、Aさん、B社、C社の3社(者)の間でやりとりをして成立させるという意味で、三者間ファクタリングと呼ぶのです。

 

(2)二者間ファクタリング

これに対して、二者間ファクタリングは、AC間で債権を売買した事実を、C社に通知せずに、話を通すこともなく、AC間の合意とお金のやりとりだけで完結させるというやり方です。

 

AさんとC社の間で、B社に対する売掛債権の売買契約を締結してAさんが代金を受け取るところまでは三者間ファクタリングと同じなのですが、Aさんは、B社に、このことを通知しません。その代わり、AさんがB社から3月末に500万円を払ってもらったときは、それを直ちにC社に支払うという約束をしておくのです。

 

B社は、当然、債権がC社に売却されたことを知らないでしょうから、3月末が来れば、代金500万円をAさんに支払います。Aさんは、この500万円をすぐにC社に引き渡します。そうすることで、先に説明した三者間ファクタリングと同じ結果を実現することができます。

 

なぜ、そのようなことをするのでしょうか。それは、ファクタリングを利用しているということが取引先に知られたら、信用不安を招いてしまうので、中小企業にとってはできれば避けたいことだからです。Aさんは、資金繰りが厳しいからファクタリングを利用するわけですが、利用しているということは資金繰りに困っているということを意味するわけですから、B社に知られたら、「Aさんはお金に困っているんだな。大丈夫かな。」と思われてしまい、その後の取引に支障が生じるかもしれないのです。

 

売掛先にファクタリングを利用している事実を知られたくない中小企業者は多いですので、二者間ファクタリングであれば売掛先に知られないとファクタリング業者が宣伝し、資金繰りに困った中小企業者がこれを利用しているという実態があります。

 

しかし、「ファクタリング被害」が問題となるのは、主にこの二者間ファクタリングです。では、何が問題であり、どうして「被害」が生じているのでしょうか。この記事もあっという間に長くなりましたので、今回はこの程度にしたいと思います。

 

次回は、ファクタリング「被害」について、さらに掘り下げて説明したいと思います。

 

(中野星知)

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