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今回は、ファクタリングの種類などについて、少し掘り下げて説明をしたいと思います。

 

1 保証ファクタリングについて

前回の記事で、「ファクタリング」とは、一言でいうと、金融を得ることを主な目的として、債権を保有している者が、一定の割引料や手数料等を負担した上で、債権を売却して譲渡することを内容とする取引だ、と説明をしました。

 

しかし、金融取引とは呼べないものにも、「ファクタリング」と呼ばれているものは存在するようです。例えば、「保証ファクタリング」という類型があります。これは、取引先などが倒産する場合に備えて、あらかじめファクタリング業者に「保証料」を支払って、売掛金の支払いを保証してもらうというものです。売掛先が倒産しても、契約で定められた一定の範囲でファクタリング業者が代わりに払ってくれるので、債権回収上のリスクを軽減することができるというものです。金融というよりはリスクヘッジであり、保険の性質を持っていると言えそうです。

 

この「保証ファクタリング」は、この記事で述べようとしている「ファクタリング被害」が問題になるケースとは別物です。「ファクタリング被害」が問題になるのは、あくまで、債権売買型のファクタリングにおいてです。

 

2 二者間ファクタリングと三者間ファクタリング

債権売買型のファクタリングは、取引に登場するのが何社(何人)かによって、二者間ファクタリングと三者間ファクタリングに分類できます。

 

前回の記事の設例を使って説明しましょう。

【設例】

建設業を自営するAさんは、ある年の1月15日に、元請である建設会社B社からある工事を下請けとして受注し、請負代金1000万円のうち半分の500万円は契約時にすぐに払ってもらい、残りの500万円は工事が終わる予定である3月の末に払ってもらう契約をしました。しかし、Aさんは、今月は経費の支払がかさみ、1月末に入金される500万円だけでは従業員3人の給料が支払えません。そこで、B社に対する売掛債権500万円を、ファクタリング業者であるC社に買い取ってもらうことにしました。

 

(1)三者間ファクタリング

便宜上、三者間ファクタリングから説明します。なぜなら、三者間ファクタリングが、債権譲渡の本来の姿だからです。

 

Aさんは、B社に対する500万円の債権を、C社に代金460万円で買い取ってもらう。そうすることで、Aさんは、本来3月末まで待たなければ受け取れないものを、40万円ほど手取り金額が減るものの、すぐに現金で受け取ることができるというわけです。これが、ファクタリングでした。

 

しかし、本来は、AさんとC社が売買契約を締結するだけでなく、B社への手続きも必要です。C社は、Aさんから債権を買い取ったとして、3月末が到来したら、B社に500万円の請求をするでしょう。でも、B社からしたら、C社は知らない会社です。A社から請求されるなら分かりますが、突然C社から請求されても、本当に払っていいのか、払うべきなのかも分かりません。急に知らない会社の人が連絡してきて、「Aさんに払うお金を当社に払え」と言われても、信用していいか分かりませんから、とても払えませんよね。

 

B社は、このような場合、C社の請求を拒否していいことになっています。裏返して言えば、C社は、たとえAさんから債権を買い取ったのが神様の目から見たときの真実であっても、契約をして代金を払ったというだけでは、B社にそのことを主張することはできないのです。これを、C社は、B社に、債権譲渡を「対抗することができない」という言い方をします。逆に、C社がB社に対抗することができるための条件を「対抗要件」といい、その条件を満たしていることを「対抗要件を具備している」と表現します。

 

では、C社が、B社に、Aさんから買い取った債権500万円を支払えと請求できる(対抗要件を具備する)ためには、どのような条件が整うことが必要なのでしょうか。

 

それは、債権を譲り渡す側であるAさんが、債務者であるB社に、債権譲渡したことを通知するか、B社が債権譲渡を承認したことが必要です(民法467条第1項)。「C社に債権を売ったから、今後はC社に払ってね。」とAさんの口から聞かない限り、B社としては払えませんよね。また、B社が、債権譲渡のことを知っていて、自分から債権譲渡を承認したときは、Aさんから通知をしなくてもC社は払ってもらえることになっています。

 

要するに、Aさんは、C社との間でファクタリング契約、つまりB社に対する売掛債権の売買契約を締結することに加え、B社に対してこのことを通知し、又はB社の承諾を得るというのが本来の姿といえます。C社は、対抗要件を具備しているのですから、支払時期が来た段階で、B社に500万円を請求することができ、B社はこれに応じてC社に支払いをします。

 

三者間ファクタリングは、Aさん、B社、C社の3社(者)の間でやりとりをして成立させるという意味で、三者間ファクタリングと呼ぶのです。

 

(2)二者間ファクタリング

これに対して、二者間ファクタリングは、AC間で債権を売買した事実を、C社に通知せずに、話を通すこともなく、AC間の合意とお金のやりとりだけで完結させるというやり方です。

 

AさんとC社の間で、B社に対する売掛債権の売買契約を締結してAさんが代金を受け取るところまでは三者間ファクタリングと同じなのですが、Aさんは、B社に、このことを通知しません。その代わり、AさんがB社から3月末に500万円を払ってもらったときは、それを直ちにC社に支払うという約束をしておくのです。

 

B社は、当然、債権がC社に売却されたことを知らないでしょうから、3月末が来れば、代金500万円をAさんに支払います。Aさんは、この500万円をすぐにC社に引き渡します。そうすることで、先に説明した三者間ファクタリングと同じ結果を実現することができます。

 

なぜ、そのようなことをするのでしょうか。それは、ファクタリングを利用しているということが取引先に知られたら、信用不安を招いてしまうので、中小企業にとってはできれば避けたいことだからです。Aさんは、資金繰りが厳しいからファクタリングを利用するわけですが、利用しているということは資金繰りに困っているということを意味するわけですから、B社に知られたら、「Aさんはお金に困っているんだな。大丈夫かな。」と思われてしまい、その後の取引に支障が生じるかもしれないのです。

 

売掛先にファクタリングを利用している事実を知られたくない中小企業者は多いですので、二者間ファクタリングであれば売掛先に知られないとファクタリング業者が宣伝し、資金繰りに困った中小企業者がこれを利用しているという実態があります。

 

しかし、「ファクタリング被害」が問題となるのは、主にこの二者間ファクタリングです。では、何が問題であり、どうして「被害」が生じているのでしょうか。この記事もあっという間に長くなりましたので、今回はこの程度にしたいと思います。

 

次回は、ファクタリング「被害」について、さらに掘り下げて説明したいと思います。

 

(中野星知)

近時、自営業者の方やサラリーマンの方が、ファクタリング業者と取引をして被害に遭うケースが増えているようです。「給与ファクタリング」「被害」というキーワードで検索すると、たくさんの記事がヒットします。金融庁も、ウェブサイト内で、ファクタリングに関する注意喚起という記事を掲載していますので参考にしてみてください(https://www.fsa.go.jp/user/factoring.html)。

 

このように言うと、なんだか「ファクタリング」自体が悪いことのように聞こえるかもしれません。しかし、ファクタリングの全部が違法なわけではありません。適法で正常な取引として行われているファクタリングもあります。

 

問題は、「ファクタリング」と称して、実際には違法な高利率によるヤミ金融取引が行われていて、その被害に遭っている方が増えているということなのです。被害者は、ファクタリングにより当座の資金が得られるので、ヤミ金業者に感謝している場合もあり、被害に遭っていることに気づかない場合もあります。

 

今回は、ファクタリング被害の説明をする前提として、「ファクタリングって何?」というお話をしたいと思います。

 

 

「ファクタリング」という言葉に明確な定義はありません。ファクタリングを直接的に規制する法律も見当たりませんし、ファクタリングという言葉が出てくる法律もありません(インターネットの法令検索サービスであるe-Govで「ファクタリング」を検索しても、法律レベルではヒットしません。)

 

「ファクタリング」を一言でいうと、金融を得ることを主な目的として、債権を保有している者が、一定の割引料や手数料等を負担した上で、債権を売却して譲渡することを内容とする取引だと言えます。

 

例を挙げて説明しましょう。

建設業を自営するAさんは、ある年の1月15日に、元請である建設会社B社からある工事を下請けとして受注し、請負代金1000万円のうち半分の500万円は契約時にすぐに払ってもらい、残りの500万円は工事が終わる予定である3月の末に払ってもらう契約をしました。しかし、Aさんは、今月は経費の支払がかさみ、1月末に入金される500万円だけでは従業員3人の給料が支払えません。

この場合、どうしても1月末までに資金が欲しいAさんは、B社に対する売掛債権のうち、3月末に入金予定の500万円部分を、ファクタリング業者であるC社に売却することにしました。AさんとC社は、契約をし、債権の売買代金を460万円とすることで合意し、C社は、Aさんに、1月31日に460万円を支払いました。Aさんは、その460万円で、従業員に給料を払うことができました。

 

C社は、Aさんから譲渡を受けた債権に基づいて、3月末にB社から500万円を支払ってもらえますので、500万円と売買代金460万円との差額である40万円が儲けということになります。このように、Aさんは、本来であれば支払が2か月先になる500万円の債権をすぐに換金する形で金融を得ることでき、C社は500万円の債権を460万円で買い取って40万円の利益を得ることができるという取引です。

 

このような一種の金融取引を、事業として(商売として)行う業者があり、そのような業者をファクタリング業者と呼びます。ファクタリングとは、要するに、債権の売買を手段とする金融取引だということができます。

 

商取引においては、「毎月〇日締めの翌々月末日払い」などとして、日々発生する売買などの取引を毎月決まった日で締め切って集計し、少し期間があいた後日にまとめて支払いをするという、掛取引が慣習化しています。その締切日から支払期日までの間の期間を「支払サイト」と呼びます。30日後に支払ってもらえる場合を「30日サイト」といい、60日先であれば「60日サイト」といいます。

 

その支払サイトは業界によってまちまちですが、建設業、通信業や製造業などでは支払サイトが比較的長めに設定され、商品やサービスを提供する請負側、業者側、売主側の資金繰りを圧迫する場合があるようです。その資金繰りの関係で、多少割引料を負担するという損をしてでも、保有している売掛債権をファクタリング業者に売却して現金化するというニーズが出てくるわけです。

 

今回はこの程度にして、次回は、ファクタリングの種類など、もう少し掘り下げて説明してみましょう。

 

(中野星知)

当事務所の中野星知弁護士が、平成26年4月1日付で、京都大学大学院法学研究科の非常勤講師に就任しました。

詳しくはこちら

1 今回は、入管法改正に伴い、新たに導入された「みなし再入国許可制度」について解説していきます。

  そもそも、「再入国許可制度」とはいったいどのような制度なのでしょうか。

2 再入国許可制度については、入管法26条において、「法務大臣は、本邦に在留する外国人がその在留期間の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもつて出国しようとするときは、法務省令で定める手続きにより、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる。」と規定されています。

  この規定だけでは、分かりにくいですが、要するに日本に在留する外国人が一時的に出国し、在留期間内に再び日本に入国しようとする場合に、入国・上陸手続を簡略化するために法務大臣が出国に先立って与える許可のことを再入国許可といいます。

3 通常、外国人が新たに日本に入国しようとする際は、有効な旅券及び査証が必要となります。しかし、適法に在留している外国人が一時的に出国し、再び日本に入国する場合にまで、新規に入国する場合と同様の手続きを課すのは、あまりに不合理です。そこで、再入国許可制度により、再入国の許可を受けた外国人は、再入国時の上陸申請にあたり、新規入国者には、通常必要とされる査証が免除され(入管法6条1項但書)、簡便な上陸審査手続(入管法7条1項)により上陸許可を受けられることになっているわけです。

4 以上が、通常の「再入国許可制度」の簡単な説明ですが、新たに導入された「みなし再入国許可制度」のもとでは、有効な旅券及び在留カードを所持する外国人が、出国する際、出国後1年以内に日本での活動を継続するために再入国する場合は、原則として再入国許可を受ける必要がありません。

  ただし、次に掲げる外国人は、みなし再入国許可制度の対象となりません。

   ①在留資格取消手続中の者

   ②出国確認の留保対象者 

   ③収容令書の発布を受けている者

   ④難民認定申請中の「特定活動」の在留資格を持って在留する者

 ⑤日本国の利益又は公安を害するおそれがあること、その他の出入国の公正な管理のため再入国の許可を要すると認めるに足りる理由があるとして法務大臣が認定する者

4 なお、みなし再入国許可制度を利用して出国した外国人が、出国後1年以内に再入国しない場合、在留資格が失われるので、注意が必要です。1年以内の再入国を予定している場合であっても、不測の事態が発生すれば1年以内に再入国できない可能性があるような場合には、通常の再入国許可を受けて出国するのが望ましいといえます。

(田中涼)

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1 はじめに

「家族(友人、知人)が逮捕されたのですが、本人と面会できますか?差入れもしたいのですが、できますか?」

 

刑事事件でよくある質問です。これには、まず、逮捕された後の身体拘束手続きの流れの説明から始めなければなりません。

 

2 身体拘束手続きの流れ

⑴ 罪を犯したのではないかと疑われている人のことを「被疑者」と呼びます。テレビなどでは「〇〇容疑者」などと言われることがありますが、だいたい同じ意味です。

 

警察官が被疑者を逮捕した場合、留置の必要があると考えたときは、身体拘束した時点から48時間以内に、書類や証拠物とともに被疑者を検察官に送致する手続きをしなければなりません。警察の逮捕の手持ち時間は48時間だと言われる理由です。

 

警察官から送致された被疑者を受け取った検察官は、留置の必要があると考えたときは、被疑者を受け取った時点から24時間以内に裁判官に勾留を請求しなければなりません。もっとも、検察官が手持ちの24時間の枠をギリギリ一杯使うということはあまりないように感じます。

 

このように、逮捕と呼ばれる段階は、警察官と検察官の手持ち時間合計72時間が最長という建前になっています。

 

⑵ 検察官が勾留請求すると、裁判官が、引き続き被疑者を拘束する理由があるか、必要性があるかを判断します。あると判断された場合は、被疑者は「勾留」され、勾留請求された日から10日間、引き続き拘束を受けます。

 

⑶ この10日間の内に、捜査機関が必要な捜査を終えることができないときは、検察官により、勾留の延長請求がなされる場合があり、裁判官がやむを得ない事由があると判断したときは、最長10日間延長されることがあります。

 

検察官は、原則として当初の勾留10日目までに、勾留延長があった場合は延長された期限までに被疑者を起訴するか否かの判断を迫られます。勾留中に被疑事実と同一事実で起訴すると、自動的に被疑者勾留が起訴後勾留に切り替わり、引き続き2か月間勾留されますが、起訴しない場合には被疑者を釈放しなければならないからです。

 

起訴後勾留は原則2か月とされていますが、一般的には2か月の期限が到来しても判決がなされるまでは1か月ごとに勾留が更新されますので、保釈されない限り判決まで身体拘束が続くことになります。

 

3 面会について

⑴ 被疑者の家族、友人知人も含めてですが、被疑者と面会(接見といいます。)をすることは基本的に可能です。ただし、それには、様々な制約があることに留意しなければなりません。

 

⑵ 刑事訴訟法80条は、次のように定めています。

「勾留されている被告人は、第三十九第一項に規定する者(※)以外の者と、法令の範囲内で、接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」

 

※ここで出てくる「第三十九第一項に規定する者」というのは、弁護人又は弁護人となろうとする者(以下、「弁護人等」といいます。)のことで、端的に言えば弁護士のことです。ですので、この条文は、弁護士以外の人とも接見したり物品をやりとりすることができますよ、但しそれは法令の範囲内に限られますよ、ということが定められているということになります。なお、この条文は被告人、つまり起訴された後の勾留手続きに関するものではありますが、起訴前の被疑者段階の勾留手続きにも準用されます。

 

具体的には、次のような点に注意しなければなりません。

 

① 接見の申込が受け付けてもらえる時間は、あらかじめ決められています。平日午前9時半から11時半まで、午後1時から4時までなどとされているようですが、留置場所によっても違う可能性がありますので、接見前に電話などで問い合わせるとよいでしょう。留置場所は、被疑者の段階では基本的には警察署の留置場ですが、例外的に被疑者段階から拘置所に留置される場合もありますので注意が必要です。

 

② 回数制限、人数制限があります。被疑者1人につき、1日1回1組まで、1組3人までとされているようです。ですので、接見に行くと、その日に本人が別の人と既に接見を済ませていた場合は、その日はもう接見はできないということになります。接見に行く日がバッティングしないように、家族や友人どうしで連絡をとりあい、調整しておくことが望ましいですね。また、1組あたり3人までとされていますので、4人以上で面会を希望しても、一度に全員は面会室に入れてもらえません。

 

③ 時間制限があります。警察署の留置場では1回15分~20分とされているようですが、接見の混み具合等によって短縮される場合があります。

 

④ 取調べなどの捜査の都合により断られる場合があります。本人が取調べを受けている最中なので接見できない場合や、現場への引きあたり捜査で出かけているとか、勾留質問を受けるために裁判所に出かけている等の理由で、本人が留置場所に居ないので物理的に接見できないことがありえます。留置場所に居るかどうかは、留置場所に電話などで問い合わせると教えてくれる場合がありますので、聞いてみるとよいでしょう。

 

⑤ また、本人が接見したくないと言っている場合も接見できないことがあります。上記の1日の回数制限の関係で、その日に後で別の人に接見をする予定がある場合、その人との接見ができなくなると困るので、本人が断るということもあるようです。

 

⑶ もう一つ注意しなければならいことは、弁護人等以外の人との接見が、裁判官によって禁止されることがありうるということです。刑事訴訟法81条は次のように定めています。

「裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第三十九条第一項に規定する者(※)以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押さえることができる。」

 

これを接見禁止といいます。被疑者が当該被疑事実を否認していたり、共犯者がいるとされている事案、特に集団的に行われたとされる事案においては、裁判官がこの接見禁止命令をする場合が少なくありません。その場合には、弁護人等以外の家族、友人、知人は、接見することはできません。また、物品の授受をすることも禁止されるのが通常です。つまり、差入れ、宅下げ(差入れの反対に、被疑者が家族等に手持ちの物品を持ち帰ってもらうことを宅下げといいます。)が禁止されるということです。もっとも、衣類や書物、食べ物や生活必需品等の差し入れは通常禁止されませんので差入れることができます。

 

この接見禁止は、原則としては起訴されるまでですが、裁判官が必要と判断したときは、起訴後も更新される場合がありますので、起訴されたからといって必ず接見禁止が解けて接見できるわけではありません。

 

もしどうしても本人と連絡をとる必要がある場合には、弁護人等に連絡をとって、伝言を依頼するという方法があります。弁護人等以外の人の接見では、警察の係の人が接見室に同席しますので、会話の内容が知られてしまいますが、弁護人等は立会人 なしで接見することができますので、秘密を守ることができます。

(中野星知)



 

1 2012年7月9日から新しい在留管理制度がスタートしました。これまでの在留管理制度と何がどう変わったのか、基本的な変更点について数回にわたり解説していきます。

  今回は、新たな在留管理制度のもと、外国人に交付されることになった「在留カード」について述べたいと思います。

2 2012年7月9日以前の旧制度である外国人登録制度においては、日本在留の外国人は、原則として、日本に在留することとなった日から一定の期間内に、居住している市区町村に身分事項や居住地等を届け出て外国人登録をする必要がありました。

  それ以外に、日本に上陸する時や、在留資格を更新する時などには、入管法に基づいた手続きが必要となり、それにより、入国管理官署に当該外国人の情報が把握されていたわけです。

  このように、これまでは、入管法と外国人登録法という二元的な情報把握の体制がとられていました。

3 それが、新たな在留管理制度の導入に伴い、外国人登録制度は廃止され、法務大臣が在留資格をもって我が国に在留する外国人に在留カードを交付し、一元的に外国人の在留情報を把握する体制に改められたのです。

4  新たな在留管理制度の対象となる、つまり在留カードが交付されるのは、入管法上の在留資格をもって適法に日本に中長期間在留する外国人であり、①〜⑥のいずれにも該当しない人です(入管法19条の3)。

  ① 「3月」以下の在留期間が決定された人

  ② 「短期滞在」の在留資格が決定された人

  ③ 「外交」又は「公用」の在留資格が決定された人

  ④ ①〜③の外国人に準じる者として法務省令で定める人

  ⑤ 特別永住者 

  ⑥ 在留資格を有しない人 

5 在留カードは、対象となる外国人に対し、上陸許可や在留資格変更許可、在留期間更新許可等の在留に係る許可に伴って交付されます(入管法19条の6、20条4項、21条4項)。在留カードは、常時携帯する義務があり(入管法23条2項)、携帯義務違反に対して罰則も設けられていることから注意が必要です(入管法75条の3)。

6 在留カードには、写真が表示され(入管法19条の4第3項)、以下の事項が記載されます(入管法19条の4第1項)。

  ① 氏名、生年月日、性別及び国籍の属する国又は入管法2条5号ロに規定する地域

  ② 住居地(本邦における主たる住居の所在地)

  ③ 在留資格、在留期間及び在留期間の満了の日

  ④ 許可の種類及び年月日 

  ⑤ 在留カードの番号、交付年月日及び有効期間の満了の日 

  ⑥ 就労制限の有無 

  ⑦ 資格外活動許可を受けているときはその旨 

6 次回は、新しい在留管理制度のもと導入されたみなし再入国許可制度について解説したいと思います。

(田中 涼)

1 標準契約書と原状回復ガイドライン

前回、賃貸住宅の退去時の原状回復、敷金返還をめぐるトラブルが増えているというお話をしました。主に、退去後の修理、クリーニング、リフォームなどの費用を、賃貸人と賃借人のいずれがどこまで負担するのか、その範囲と費用負担をめぐるトラブルです。

 

このような状況を受け、平成5年に旧建設省(現在の国土交通省)が「賃貸住宅標準契約書」を発表しました。これは、賃借人の居住の安定の確保と賃貸住宅の経営の安定を図る目的で、賃貸住宅の契約書のひな形として参考にされるようにと作成されたものです。そして、近時、国土交通省は、その改訂版を発表しています。

 

「賃貸住宅標準契約書」改訂版はこちら

 

また、国土交通省は、平成16年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)も発表し、近時再改訂されました。これは、過去の裁判例や取引の実務を踏まえ、原状回復の費用負担のあり方などについて、トラブルを未然防止の観点から、現時点において妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとしてまとめたものです。

 

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」再改訂版はこちら

 

2 ガイドラインの概要

建物の価値は、人が居住するか否かに関わらず、時間が経過すれば減少するものであり、契約によって定められた使用方法に従い、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、それが使用開始当時の状態よりも悪い状態であったとしても、賃借人としてはそのままの状態で賃貸人に引き渡せば十分であるというのが、原状回復に関する支配的な考え方であると前回ご紹介したところです。しかし、具体的にどのような場合に、どこまでの範囲が賃借人の負担となるのかは、そのような一般的で抽象的な基準を言われただけでは何も分かりません。

 

この「ガイドライン」は、上記の基準よりももう少し具体化した一般的な考え方を示すとともに、さらに、原状回復をめぐってよく問題となる「畳、フローリング、カーペット」「壁や天井のクロス」「ふすま、柱」「その他の設備」などの項目別に、どのような場合に賃借人が費用を負担する必要があるのかの基準を示してくれていますので、大変参考になります。

 

3 ガイドラインの例

ガイドラインの中身を若干紹介しますと、

・ 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡

(考え方)家具保有数が多いというわが国の実情に鑑みその設置は必然的なものであり、設置したことだけによるへこみ、跡は通常の使用による損耗ととらえるのが妥当と考えられる。

・ タバコのヤニ

(考え方)喫煙自体は用法違反、善管注意義務違反にあたらず、クリーニングで除去できる程度のヤニについては、通常の損耗の範囲内であると考えられる。

などといった考え方が示されています。読んで少し意外な印象を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

4 ガイドラインの位置づけ

このガイドラインは、国土交通省が発表しているものではありますが、法的拘束力はありません。裁判規範性がありませんので、トラブルが訴訟に発展した際に、裁判官がこのガイドラインに従って判断しなかったからといって、その判決が違法ということにはなりません。

 

個別具体的な事案において、原状回復費用の賃貸人と賃借人間の負担の問題は、契約の内容や、物件の状況等によって、あくまで個別に判断されることになります。が、このガイドラインは、個別具体的な事案における解決のために、賃貸人賃借人間の交渉や、裁判になったときの判断の指針として利用されることが期待されています。そして、実際にも、このガイドラインはトラブル解決の指針として参照され、影響力を持っていると言えます。

(中野星知)

 




1 最近、円安が進行していることも影響し、今年4月に日本を訪れた外国人旅行客の数が90万人を超え、過去最多を記録したようです。

  今回は、外国人が日本を訪れるために必要となるビザ(査証)について述べたいと思います。

2 外国人が日本に上陸するためには、原則として、有効な旅券(パスポート)を所持していることのほかに、旅券に有効な査証(ビザ)を取得していることが必要とされています。

  査証とは、日本国領事館等が、外国人の所持する旅券は真正なものであって、入国目的からみて日本への入国は問題ないと判断されることを旅券に表示(査証印を押す)したものをいいます(黒木忠正『入管法・外登法用語辞典』75頁(日本加除出版、平成13年))。

  日常会話では、「ビザを更新した。」といった具合に、「在留資格」のことを'ビザ'ということがままありますが、ここでいう査証(ビザ)とは異なる意味で使われていることにご注意下さい。

3 査証は、外国人が日本に到着後国内で取得することができないことから、事前に外国にある在外日本領事に対してビザ申請を行い、取得しなければなりません。査証はあくまで、日本国領事館等による入国審査官に対して、当該外国人の日本入国について問題がないとする推薦するものにすぎないので、有効な査証があれば、通常は上陸が許可されますが、査証を所持していても、入国の際に上陸拒否事由(入管法5条1項各号)が発覚するなどすれば、上陸が許可されないことがあるので注意が必要です。

4 ここまで読んで、「外国人が、日本に観光のために入国するような場合にも本当に査証(ビザ)必要なのかな?」と疑問に思った人もいるかもしれません。さきほど、「外国人が日本に上陸するためには、原則として、有効な旅券(パスポート)を所持していることのほかに、旅券に有効な査証(ビザ)を取得していることが必要」と述べたように、確かに査証(ビザ)が不要な場合もあります。

  すなわち、査証免除取決め等により査証を要しないこととされている国の国民の旅券、再入国の許可を受けている者の旅券又は法務大臣から難民旅行証明書の交付を受けている者の当該証明書には、査証が不要であることが入管法6条1項但書に規定されています。

  日本においては、平成23年5月時点において、計61の国と地域との間で一般査証免除措置を実施しており(外務省HP http://www.mofa.go.jp参照)、これらの諸国・地域人は、商用、会議、観光、親族・知人訪問等を目的とする場合には、入国に際して査証を取得する必要はありません。


(田中涼)




1 敷金返還と原状回復

法律相談などでも、賃貸借契約で賃借人が退去する際の原状回復をめぐるトラブルによく出会います。敷金返還の問題と原状回復の問題とは密接に関連しています。賃貸人は、賃借人からマンションの部屋などの明渡しを受けると、壊れた箇所を修理したり、壁紙を貼り替えるなどのリフォームをしたりして次の人に貸すための準備をします。それにかかる費用のうち、賃借人がどこまで負担しなければならないか、賃貸人はどこまで賃借人に請求することができるかによって、敷金の内いくらが賃借人に返還されるべきかが決まってくるからです。

 

2 原状回復義務とは

賃貸借契約が終了すると、賃借人は、賃借物を原状に復して返還しなければなりません。これを原状回復義務といいます。不動産の賃貸借では、契約書に「賃借人は、本物件を原状回復しなければならない。」などと明記されているのが通常です。

 

では、「原状に回復する」というのはどういうことを意味するのでしょうか。例えば、新築マンションを5年間賃借したという場合、賃借人は新築同然にして返還しなければならないのでしょうか。それとも、うっかり壊してしまったりした部分などを修理するだけでよいのでしょうか。

 

これについては、原状回復とは、契約書に特別な約定(特約)がない限り、入居した場合と全く同一の状態に戻すということを意味するわけではなく、経年劣化によって生じたり、通常の用法に従って使用していた場合に生じるような損耗・汚損(「通常損耗」といいます。)については、賃借人は元通りにする必要は無く、そのままの状態で賃貸人に引き渡せばよいと考えられています。

 

なぜかというと、そもそも賃貸借契約は、目的の物件を賃借人に使用させ、その対価として賃貸人は賃借人から賃料を受け取るのですから、通常のやり方で使用することによって生じる損耗や汚損は、賃借人が支払う賃料の中に既に織り込み済みだと言えるからです。

 

仮に、これとは逆に、借りた時と全く同一の状態にして返さなければならないのだとすると(上記の例でいうと、5年前の新築の状態にして返さなければならないのだとすると)、賃貸人はいつまでもそのマンションを新築の状態で保持しつつ、賃料収入を手にすることができることになって不合理であることは、直感的に理解することができます。

 

最高裁裁判所も判決(最高裁平成17年12月16日判決、判例時報1921号61頁)の中で、次のように述べています。

 

⑴ 原状回復義務について

「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ」

⑵ 通常損耗と賃料との関係

「賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。」

⑶ 通常損耗が賃借人負担となる場合の要件

「そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」

 

このように、最高裁は、通常損耗に関しては、賃借人は、原則としてこれを回復する義務を負わないとしています。原状回復義務に関するこのような考え方は一般的で、学説上も異論をみないと言われています。

 

3 通常損耗補修特約

ここで注目すべきは上記の⑶の部分です。最高裁は、原則として通常損耗につき賃借人は回復義務を負わないとしましたが、一定の要件が満たされる場合には、賃借人が通常損耗部分についても回復義務を負う場合がありうることを否定しませんでした。その要件としてあげられているのは、

 

「通常損耗にかかる修理費用を賃借人が負担する旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていること」

 

であり、その明確な合意があったといえるためには、

① 通常損耗の範囲が賃貸借契約書上で明記されている

か、そうでない場合には

② 賃貸人が口頭で説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意のないようとしたものと認められること

というものです。要件としてはかなり厳格なものだと言えます。しかし、逆に言えば、この要件が満たされる場合には、賃借人が通常損耗の修理費用を負担しなければならないとされる場合がありうるということを意味します。

 

ただし、最高裁は「少なくとも」上記の要件が必要と述べているだけですので、この要件を満たしたからといって、通常損耗補修特約の有効性が常に肯定されるわけではないということに注意が必要です。

 

4 原状回復をめぐるトラブルの状況

敷金や原状回復をめぐるトラブルは今に始まったことではありません。賃借人は通常損耗については回復義務を負わないということも昔から言われていたことです。しかし、今なぜ敷金返還をめぐるトラブルが増えているのでしょうか。

 

賃借人には通常損耗に関する回復義務を負わないとはいいつつも、市販の賃貸借契約書の多くには賃借人に対して修繕義務や過大な原状回復義務を負うとの内容の条項が書かれていました。しかし、それにも関わらず訴訟にまでなることはなかなかありませんでした。それは、請求額が必ずしも高額ではないこと、訴訟で敷金を請求するのは知識、費用及び労力が必要となること、賃借人が仲介をした不動産仲介業者の協力を得ることは難しく賃貸人・賃借人間で情報や交渉力の格差があること、世の中の賃借人間で協力、連帯をしようにもその仕組みがなく困難であったこと、弁護士へのアクセスも容易でなかったという事情があったからです。

 

しかし、近時、新築賃貸物件が増加したこと、新規賃料が低下し、賃貸借契約終了後新たな賃借人が見つかるまでの期間が長くなったこと、清潔志向の高まり等の借家市場の変化により、賃貸人が補修、クリーニング、リフォーム等の費用を敷金から控除する事例でトラブルになる例が増えていると考えられます。特に、差入れている敷金額が高額である場合、敷引特約(敷引特約の問題については、別の機会に扱います。)の敷引率が高い場合で訴訟に発展する場合が増えていると言えるでしょう。

 

(中野星知)




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